神と罪のカルマ オープニングzero【α】
ふっ、と顔をあげた。
青々とした空が一面に広がり、雲はまるで自然のアートのように浮かぶ。今朝のニュースで本日は数日ぶりの快晴だと伝えていた。
ベランダではこの日を待ちかねたかのように真っ白なシーツが心地良い風にゆらゆらと揺れている。
――あぁ、本当に気持ちが良い……。
ベランダの柵に背を預けて寄り掛かると、風が頬を撫でた。暑さによって額に浮かぶ汗も僅かながら冷えて涼しいと感じる。
きっとシーツだけでなく自分も、大げさに言えばそこから遠くに見える街もこの天気を待ち望んでいたのではないだろうか。そんな気がしてならない。
久しぶりの青空をもっと見ようと、顔をさらに上へと、自然と身体が反った。
「落ちるよ」
声が、聞えた。
部屋の中から、青空を求める自分へと。
風とは違う心地良さを、柔らかさを感じさせる。
綺麗で穢れのない、人々の不安を取り除いてくれる、〝慈愛〟に満ちた声。
その声に口元が緩んだのがわかった。
「落ちねェよ」
「落ちるもん」
余裕を含んだ言葉を返すと、今度は少し拗ねた口調で返ってきた。
「俺は、そんな間抜けじゃねェよ」
「そういうのが駄目なの。普通の人より背が高いのに、そんな体制で寄り掛かっていたら落ちますよ~だ」
確かに。自分の背は日本の平均身長を軽く超えている。それに加え、先ほど身体をそったことで上半身の殆どがベランダから出ている姿になっていた。
少しでもバランスを崩してしまうと、下に広がる灼熱のアスファルトに頭から落ちる可能性があるというものだ。
絶対に落ちない自信は勿論あったが、声の人物は快く思ってないようで。頬膨らませてそっぽを向いたままだ。
同い年とは思えないほどの子供っぽさに若干呆れながらも、結局は言うことを素直に聞きいれ、今度は前から策に寄りかかり青空を見つめる。
――本当に、綺麗だ……。
日本の首都には到底及ばないが、この街にも多くの人々が住んでいる。様々な人々が、各々の鼓動を鳴らして生きているのだ。
ただ、首都との違いがあるとすれば、昼間にはいまのような青々とした空が広がり、夜には光り輝く星々が広がっているところ。都会でありながら自然を決して忘れてはいない。
空を見上げていた顔をゆっくりと下げ、寄りかかった柵から遠くの街並みを見つめる。
高い位置に昇った太陽によって照らされ、そびえ立つビルたちによって光が反射し、街が輝いて見えた。
例えるなら、『宝箱の中身』だろうか。ぼんやりと頭に浮んできたその言葉に笑いが隠せない。
なんてメルヘンチックな考えだろう。今日の自分は、どうやらこの目に映るものを色々なものに表現してみたいようだ。
可笑しくて笑えてくる。これは、きっと久しぶりに出会う太陽のせいだ、と天に煌めき燃え上がる球体を勝手に言い訳の理由にした。
全く、人のことを言えない。自分自身もまた十分に子供っぽいのだから。
そんな自分を気にすることなどまったくなく、目の前に広がる世界は美しさと輝きを広げてそこに存在し続けている。
「……」
己の持つ、漆黒の瞳をゆっくりと閉じた。
先ほどまで広がっていた風景は消え、暗闇が訪れる。
――恐れるな……。
胸の中で、まるで子供のおまじないのように唱え、意識を耳に集中させる。
「……」
元気よく遊ぶ子供の声。
体育に取り組む生徒の足音。
主婦たちの世間話の笑い声。
犬の吠える声。
猫の鳴き声。
鳥のさえずり。
自転車のベル。
車のクラックション。
電車の走る音。
店から聞こえる音楽。
微かに聞こえるものからはっきりと聞こえるものまで。視界を奪われようとも耳を済ませばこの世界に生きて動くものの音を捕えることができる。
命によって生まれた音たち、命が触れることによって生まれる音たち。
耳に届き、心へと流れていく。胸の奥が熱くなる
音はまるで『救い』と『癒し』。心に存在する〝何かを確かめる〟かのように、音を拾い、聞いていく。
――大丈夫だ。
閉ざされた漆黒の瞳を再び開く。長くは閉じていなかったが、捕らえた太陽の光が眩しい。
目を瞬きながら、先ほど自分へと声をかけてきた人物へと振り向く。
「……なぁ」
「なに~?」
部屋の中で動かしていた手を止め、人物は呼びかけに答え振り返る。
――本当に、今日は心地良いものに囲まれている……。
「今日さ……」
「ん~?」
「昼寝しねェか?」
神と罪のカルマ オープニングzero【α】 終
神と罪のカルマ オープニングfirst 続
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