神と罪のカルマ オープニングthird【05】




「それで一体だけ作らなかったんだね」
「灯真が一人で作ってみたいって言ったからな」
 時刻は八時を過ぎ。街の中を一つの傘を差して仁樹と朋音は歩いていた。
 その傘といえば、仁樹の私物化にされそうな先日から博士から借りっぱなしのものである。

 昼食を食べたあとは、二体目のプラモデルを完成させた。
 一体目と一緒に子供部屋にあるタンスの上に置いて、次はトランプやら人生ゲームなどで遊ぶことに。
 灯真に新しいトランプ遊びを教えながら、遊びに遊んだ三人。そうしているうちに、いつの間にか時刻は夕食準備の時間に。
 二人が夕食作りを手伝うと言ってきたため、夕食のメニューは三人で作れる豆腐ハンバーグとなった。
 慣れた手つきで形を整える仁樹。初めての体験で戸惑いながら頑張る灯真。星やクマなど面白い形を作り出す海琉。
 傍から見れば、台所に並ぶ三人は異様な光景であったかもしれない。しかし、本人たちはそんなことを全く気にしていない。
 フライパンでじっくりと蒸して焼いくことで完成した豆腐ハンバーグ。
「お父さん、たべてくれるかな?」
「持って行った昼飯ちゃんと食ってたからな。大丈夫だぞ」
「でも、その昼食にいつ気付いたんだろうね」
 仁樹が部屋に持って行ったとき、博士はノックの音にすら気が付かないほどに仕事に没頭していた。
 近づいても、自分に気付く気配はなかったので、目が付きそうな場所に料理をおいて仁樹は部屋を出た。
 食器を回収しにいったときもやはり自分に気付かない。
 だが、料理は綺麗になくなっていて、食べ終えた皿の上には「ご馳走様でした」と描かれた紙が置いてあったのだ。
「もっていったら、おしごとのじゃましちゃうかな?」
「いや。お前なら大丈夫じゃないか?」
 心配そうな表情をする弟に、仁樹はごく普通に答える。
「どうして?」
「息子大好きな親父だからだ」
 きっと、灯真の「おとうさん」という一言で視線はすぐに灯真へと向けられるだろう。
 そう仁樹と、傍で頷く海琉は確信していたのであった。

「それにしても。仁樹君がそのアニメを知らなかったことがびっくりだよ」
 時間は現在に戻る。
 彼女の歩みに合わせて、ゆっくりと道路側を歩く仁樹。その優しさに朋音は勿論、気付いている。
 天気は今朝より弱くなった雨。しかし、止む気配を見せることはない。
「まァ、アニメとかあまり見ねェからな。でも、今度それ見てみようかな」
「一緒に見てもいい?」
「勿論」
 自然と一緒に見る約束をして、お互いに今日あった出来事を再び話し伝え合う。
 社長が新しいチークを買ったこと。海琉がババ抜きで勝ちまくったこと。後輩に恋愛相談されたこと。灯真の料理に積極的な姿のこと。
 尽きることのない今日の出来事。お互いのいないところで、自分がどんな楽しい日々を過ごしたか。
 知りたい、伝えたい。
 楽しさも、嬉しさも、悲しみも、寂しさも分かち合いたい。
 そんな彼らと人々はすれ違う。そして、全員が振り向き返る。
 理由は朋音の容姿。と、それだけではない。
「ねぇ、いまのカップル見た?」
「見た見た!あの美女とカッコいい人のカップルでしょ!?」
「なんか。綺麗ていうか、暖かいというか」
「微笑ましいかったね~」
 すれ違った彼女たち二人の言葉は、決して嫌味など含まれていない。素直な感想だ。
 これは他にすれ違っていく人々にも、当てはまる。
 それは何故か。
 二人がとても『幸せ』そうな表情、雰囲気を漂わせているからだ。
 不思議と心が温まってしまう。そんな雰囲気を。
「今日の夕飯、豆腐ハンバーグだけどいいか?」
「もちろん!」
 片手に持っている袋の中身は博士宅で作った豆腐ハンバーグ。
 数は三つ。整った形のもの。やや小さい形のもの。面白い形のもの。
「形で誰が作ったのかすぐにわかるぞ」
「それは楽しみですね。私も今度作ってみようかな?」
「なら、みんなで作ろうぜ。パーティー的なもの開いてよ」
「いいね。絶対に楽しいよ」
 いつがいいだろう。予定は大丈夫だろうか。
 楽しそうにパーティー企画を考える彼女。その表情はまるで子どものようだ。
 幸せな時間を考える、無邪気な子どものような―――。
「くくッ……」
 誰もが魅了される整った顔が、子どもな表情をするなんて。すれ違う人々は想像できるだろうか。
 絶世の美女でも、子ども心はしっかりと持っているのだということを―――……。
「仁樹君?」
「いや、お前があまりにも子どもみたいで笑っちまった」
「馬鹿にしてる?」
「してねェしてねェ」
「その言い方してるもん。仁樹君だって、子どもっぽいところあるんだから」
 頬を膨らませる朋音。そういうところが子どもっぽいことだと彼女は気付いているのだろうか。
「へェ、それは心外だ。俺のどういうところが子どもっぽいんだ?」
「海琉君とムキになって喧嘩するところとか、ゲームで負けず嫌いなところとか」
「お前も負けず嫌いだろ」
「仁樹君の方が負けず嫌いだよ!」
「はいはい。あとは?」
「あとは~……」
 細い指で仁樹の子どもっぽいところを言いながら数えていく朋音。
 その姿が綺麗というより可愛らしかった。
 見ていて、飽きることはない。自分の愛しき彼女。
「ほら! 数えてみたら、仁樹君も十分子どもっぽいですよ!」
「言っとくけどよ。その殆どは朋音にも当てはまるぞ」
「え~」
 まさか自身満々にいったそれらが自分にも当てはまっていたなど考えもしなかったのだろう。
 自身の子どもっぽいところなど、自分では案外気付かないものだ。
「で、でも……レベルは仁樹君の方が!」
「レベルってなんだよ。レベルって。つうか、そういうところが子どもっぽいんだよ」
「う~……」
 面白い。本当に面白くて、可愛い。
 こんなに彼女への想いが止まらないのは病気なのではないのか。そう思えてしまう。
 なら、その病気は永遠に治らなくていい。
 彼女へと想いを止めてしまわないように……――。
「どうしよう、勝てない」
「そりゃァ、いつも負けている俺には嬉しいことだ」
「どっちかっていうと私がいつも負けているような気がするよ?」
 料理でも。運動でも。と今度は自分が負けているところを指折り数えていく。
「そういうのじゃァねェんだ」
「うん?」
 人を幸せにする予測不可能なこと。自分の気持ちに素直な表情。他者を想い、愛する気持ち。
 どれも彼女には敵わない。敵いっこない。
「俺どころか、周りのやつらも敵わないなァ」
「え?え?仁樹君、どういう意味?」
「朋音の強さに誰も敵わないってことだ」
「私、喧嘩とか強くないよ?」
 その答えがどういう意味なのかはわからないようで。キョトンとした顔で、勘違いな言葉を返してくる。
「いいよ。お前がわかっていなくても俺がわかっている」
 自分以外にも、わかっている人々がいる。
「そっか、仁樹君がわかっているんだね」
 だが、彼女は「仁樹がわかっている」ということだけで喜ぶ顔を見せる。
「さてと。朋音が納得したところで、だ。ハンバーグの付け合わせは何がいいか?」
「やっぱり野菜かな? この前、仁樹君が作ってくれたドレッシング美味しかったな~」
「実は、博士ん家で新しいドレッシング作ってみたんだ」
「ほんとう? やった~!」
 自分の新作を喜んでくれる朋音。

 しかし、次の瞬間。
 その幸せに浸る時間は一気に何処かに行ってしまった。

「じゃァ、それの他に……――――!?」

 突然、爆発音が聞えた―――。

「きゃぁぁぁぁああぁああああああ!!!」
「爆発だー!!」
「いきなりゴミ袋が爆発したぞ!!」
 街が騒ぎ出す。爆発音が聞こえた方へと、振り向く仁樹と朋音。
「爆発って!?」
「まさか例の……!?」
 連続犯罪者。すぐに頭に浮かんだ。
「怪我人だぁぁあ!早く!救急車を――!」
「……!?」
 『怪我人』。
 その言葉に朋音が反応する。
「人……人が……!?」
「朋音!」
 すかさず彼女を抱きかかえる仁樹。
「朋音、落ち着け!」

 朋音は世界を愛している。本能で愛している。
 『世界』。それは『生きるもの』。
 『生きるもの』たちが作り出す『世界』。
 その『世界』一部がたったいま傷付いた。傷付いてしまった。
 世界を愛する彼女にとって、〝それは『悲しみ』へと変わる〟―――。

 そんな彼女を包み込み必死に落ち着かせる仁樹。
 そして耳を澄ませ、今の状況を知るための情報を集め始めた。

「怪我人はどうだ?」
「破片で切ったみたいだ」
「破片って何か壊れたのかい?」
「いや、ゴミ袋に入っていたみたいだ」
「殺傷性はなさそうだ」
「死人は出ていないようで」
「しかし、被害は」
「女性が被害を」
「誰か警察に連絡を」
「救急車はいつ」

〝死人は出ていない〟―――!
「朋音、大丈夫だ。怪我人だけだ。誰も―――!?」

 刹那。二発目の爆発音が響く。

「うわぁぁぁぁあああああ!!」
「全員、建物から離れろ!!」
「ゴミ袋から離れろぉぉぉおおお!!」
 彼女に語り掛ける時間も与えない。続けて、三発目、四発目と爆発音が聞こえてくる。
「ッち―!」
 滅茶苦茶だ―――!
 しかし、爆発はそんなことを気にしない。人々に休む暇も与えることなく続いていく。
 このままでは、人の混乱に巻き込まれてしまう。腕の中で震え続ける朋音。この状態では彼女が走ることは無理だ。
「捕まってろよ」
 朋音の華奢な身体を両腕で抱き上げる。
 このまま走って安全な場所へと移動しようと走り始めようとしたときだった―――。
 建物と建物の間に出来た闇。そこで、一瞬小さな光が見えた。
 光―――。
 仁樹の脳がたったその瞬間で光の正体を暴く。
 爆発と光。光は輝く。輝くは―――。
 『火』―――。
「―――!! 伏せろ!!」

 仁樹の声が周りの者たちへと伝える。
 その瞬間。
 爆発音ではなく、爆風と凶器とかした欠片が彼らを襲い掛かった―――!

「ぐっ!!」
 すぐに、朋音を庇うように伏せた。それにより自然的に傘が盾の役割として彼らを破片から守る。
 だが、仁樹の額を鋭い痛みが襲う。流れる感覚。血だ。そこだけ間に合わなかったのだろう。
 しかし、仁樹は気にしなかった。それより、朋音が先だ。すぐに自分の腕の中にいる彼女に視線を向ける。
「仁樹君……!!」
 怪我をしている様子は無いことに安心する。しかし、彼女は逆だ。
 先程よりも泣きそうな顔で仁樹の傷を見る。
「良かった。無事で」
「仁樹君、血!! 血が流れてる!!」
「大丈夫だ。切っただけだ」
「だめ!!」
 急いで彼女は鞄を漁り始める。顔色が悪い。
 震えながら探す手はやっと見つけたと言うように、そのものを掴む。
 黄色いハンカチ。以前、彼女が気に入って買ったものだ。
 それを朋音は戸惑うことも無く血が流れる仁樹の額に押し当てる。
「おい、それ……」
「動かないで! 大丈夫、横になる!?」
「いいから、落ち着け」
「落ち着けないよ!」
 もう泣きそうな顔ではなかった。
 彼女のブラウンの瞳からポロポロと涙が流れる。
「ごめんなさい……、ごめんなさい……」
「なんで謝るんだよ」
「だって、私がちゃんと動けば……!」
「お前のせいじゃない」
 何処に彼女の悪いところがある。一番の原因は、この爆発を仕掛けた犯人だ。
 一瞬だけ、火に気を取られてしまった―――。
 その一瞬が心に後悔を生む。
 あの時、〝火は投げられているように見えた〟。
 つまり、あの火の先に広がる暗闇の中に〝犯人がいた可能性があったということだ〟。
 犯人の顔が見れたかもしれない。そんな後悔が頭を廻る。
 駄目だ。落ち着け―――……。
 目の前で泣く彼女に後悔していることを悟られたくない。
 どう足掻いても、時を戻すことは出来ない。では、これから自身が出来ることを考えるべきだ。
 静かな深呼吸を行い、自信の頭をを冷静にさせる。

 そして、気付く。爆発音が聞こえない。どうやらここの爆発が最後であったみたいだ。
 立ち上がって爆発現場をみようとするも、朋音がそれを阻止する。
「お願い。大人しくして……」
 仁樹を掴む朋音の手が震えていた。
「……わかった」
 これ以上、彼女を泣かせるべきではない。いまなお震える彼女の手を優しく掴み、素直に従った。
「君たち、大丈夫かい?」
 そんな二人のもとに周りの人々は駆け寄ってくる。声を掛けたのはその中の若いサラリーマンだ。
「額を切っているみたいだ。いま救急車を呼んでいるから……」
「あぁ、俺、自分専門の医者がいるんで。そいつに頼みます」
「だけど……」
「大丈夫ッス。そこまではタクシーか何かでいくんで」
 本当はお金がかかるから歩いていきたいというのが彼の本音なのだが、朋音が許してくれそうにない。
「あの……」
 続いて、声を掛けてきたのは若い女性。仕事鞄を両手で抱きかかえている。
「はい?」
「ありがとう、ございました……。あなたが伏せろ、と言ってくれたおかげで怪我をしませんでした……」
「俺も、ありがとうございます」
「私も」
「ありがとう」
 女性に続き、駆け寄ってきた人々の口から感謝の言葉が並べられる。
「そうか……」
 身体から力が抜けた。
「あんたたちも、無事でよかった……」







「祭りだ!!祭りだ!!祭りだぁぁぁぁぁああああああああああああああああ!!」
 とある錆びれたビルの屋上にて男は叫ぶ。
 見渡す景色は、謎の爆発によって騒ぎ出す夜の街。
「祭りの目玉!!?目玉はなんだ!!?そう『花火』に決まっている!!!」
 男の言う『花火』。
 それは、『爆発』―――。
「騒げ虫けらども!!ゴミ共!!雑魚共!!俺はこの世界を、恐怖のどん底に落とす『鬼』!!
 お前らが跪く存在!!最低の、最悪の、最強の『鬼』!!!『悪神』!!『邪神』!!」
 誰のも歓迎されない存在へと。

「俺が『鬼』になる時代は近い――――!!!!!」

 男が夢見る存在へと―――。







神と罪のカルマ オープニングthird 終
神と罪のカルマ オープニングforth 続








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