神と罪のカルマ オープニングforth【05】
〇
「息の根を止めてやろうかな」
隣から伝わってくるのは親友の殺意。
霧雨も止んで、湿気の多い外にて二人は道路に背を向けるように並んでいた。
「正義の味方が息の根止めるとか言うもんじゃねェよ」
「親友が二回も危険な目にあったんだよ。そう思ってしまうのも無理はないだろう?」
結局、犯人についての事情徴収や爆発現場ということもあって、グーテンタークは本日の営業を中止にせざる終えなくなった。
またしても、今月の売り上げが下がるなどの理由で店長が発狂。
流石に、前回のように放置すら訳にはいかなかったので、グーテンターク総員でそれを阻止することに。
飛んでくるボールペンはお盆でガード。向かってくる拳は寸前で回避。
そんなことを繰り返しているうちに発狂という嵐は収まり、店長は疲れて落ち着きを取り戻す。
従業員たちはその姿を確認すると、その倍精神ともに疲れた身体で次々と自分たちの自宅へと帰って行った。
しかし、そんな中。帰宅していない従業員―――仁樹は、話を知って駆けつけてきた海琉と共に爆発現場を見ていた。
「看板がね……。どんな感じで落ちてきたの?」
「多分、お前の想像通り」
目の前に落ちてきた看板。
あの時、頭への刺すような痛みが無ければ、確実に仁樹の頭へと直撃していたであろう。
そして、〝その看板が無ければ仁樹は確実に犯人を捕らえることが出来た〟。
「意図的に誰かが邪魔したとしか考えられねェ」
「そうなると、協力している奴は犯人と違って、頭のいい切れ者みたいだね」
「協力っていうよりは、利用してるって方が合ってんじゃねェか?」
二人の推測では、この連続犯罪者は正直に言って馬鹿がつくほどのド素人。
そんな存在を対等な立場で協力して、どんなメリットがある。デメリットでしかない。
そうなると、協力より利用するほうがいいに決まっている。
「利用しているってことは、今回の犯人はそいつらにとっては捨て駒みたいなものか」
「駒ねェ……。世の中には、捨て駒にしねェように使うって奴もいるけどな」
「駒が使えない限り、悪は容赦なく捨て駒にするさ。自分に利益のみを与えてくれる駒だけを残してね」
現実の世界。悪の世界。何処の世界でもシビアなことがあるのは変わらない。
悪には悪の事情がある。が、それでも人様に迷惑を掛けているのだからフォローのしようもない。
「で、仁樹はこれからどうするんだい?」
「多分、それもお前の予想通りだ」
「やっぱり?」
「そういう勘とか予想とか当たるのに、朋音のことだけは全然当てられないよなァ、お前」
「朋音ちゃんに勝つなんて無理だよ。予想してもそれ以上なことをするんだよ、あの子。
それに、まず彼氏である君ですら勝てないんだろう?」
「あァ、まァ……。最近、勝つこと諦めかけてるな」
「……悪戯、全部引っかかってるんだね」
「まァな」
一緒に住み始めてから現在まで。朋音の悪戯を全てコンプリートしている仁樹であった。
「で、話を戻すけど。仁樹、残念ながら〝そこには行けないよ〟」
「なんでだ?」
仁樹の返事からして、海琉の予想はやはり当たっていたのだろう。
海琉は続ける。
「俺もさ。あの爆発物の欠片を頼りに、今朝からキーワードが当てはまる場所へ行って来たんだけどね」
爆発物の欠片。
昨晩、二人の推理によってその欠片たちは街中にあったものではないという考えに辿り着いた。
欠片たちの元々の形は、錆びなどから見て不法投棄されたものであろうと考えられる。
街中には無く、不法投棄に溢れ、人の目に見つからない場所。
加えて、一緒に飛んできた石の形状、性質から情報を読み取り、欠片によって思い浮かぶ候補地を絞っていく。
それらの過程から、海琉が思い浮かんだ場所は三か所。
「全部街外れだったから移動とかに時間かかっちゃってね。最後の一か所だけ行けなかった」
「行けなかったってことは、〝そこだったんだな?〟」
「そうだね。場所は……」
街外れにある捨てられた倉庫―――。
「二つ目を回った時に、ここの爆発の話を知ってね。で、ここに来る最中に〝警察が倉庫のある方へ向かっているのを見たんだ〟」
「で、警察がすでに黄色いテープ張ってると思うから行けねェ、と」
「だって、その警察メンバーの中に凄い『切れ者』がいたんだよ」
「確実にそこに向かったな。その警察の奴ら」
『切れ者』。その言葉を聞き、仁樹はそれが誰であるか、はっきりと想像出来た。
「流石だな、『切れ者』は……」
しかし、海琉が言ったとおり、警察がいるため倉庫には近づくことが出来ない。
さて、困ったものだ、と。眉間に皺を寄せている仁樹。そんな彼の肩に、海琉は手を置いた。
「少し休まないか?」
「え……?」
「さっき言ったとおり、君は二回も連続で被害に合ってるんだ。休んだってバチは当たらない」
「だけどよ……」
そうであっても、この胸にある『想い』を落ち着かせることが出来ない。
正義感では無い、この『想い』を。
「いまの君が一番にやるべきことは犯人を見つけることじゃない」
仁樹の気持ちを読み取ったように海琉は話す。
「心配させてしまった彼女を安心させることだろう?」
「……そうだな」
今日、このまま犯人を見つけることを続けたら朋音は不安になるだろう。不安にさせてしまうだろう。
「安心させるって言っても、〝俺たちの行動は必ずあの子を不安にさせてしまう〟」
不安にさせてしまうのなら、その不安を少なくさせなければならない―――。
それが、いま仁樹がやるべきこと。やらなければならないこと。
「俺は、あいつを、『不幸』にさせちゃいけねェんだよな……」
「そういうこと。だから、今日は何もしないでおこう」
海琉の提案に今度は素直に頷く。
「さて、まずは腹ごしらえでもしますか」
「いっそのこと、また博士のとこで飯喰うか? 昨日の爆発で今日も灯真は休みだと思うしよ」
「いいね~。ちょっと行ってみようか」
その後、博士の家に着くまでに二人の会話が途切れることは無かった。
無かったのだが、仁樹は話しながらも頭の中では先ほどの会話で出てきた言葉について考えていた。
『不幸』―――。
不安にはさせてしまうのだ。どんなに頑張っても、どんなに信頼されても。
朋音は不安になる、心配してしまう―――。
信じてないから心配するのではない。
優しすぎるから心配するのだ。
だから、仁樹は彼女の気持ちを『不安』で終わらせなければならない。
決して、『不安』を積み重ね、『不幸』にはさせてはいけない。
〝彼女と共に生きると決めた時、そう誓ったではないか――――。〟
いま、彼女を『不幸』にさせないことは何か。
そのことを考えられなかった愚かな自分に腹が立つ仁樹。
歩くときの癖でポケットに入れていた手を海琉にばれないよう、強く握り締めた。
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