神と罪のカルマ オープニングsixth【03】



 千架の手に握られるは黒く光る、死を与える銃。
「あぁ。仁樹……」
 使い慣れたように。その右手で、銃を器用に回す。
「早く会いたいなぁ」
 棚の上にある、部屋で一番美しいとも言えるグラスに狙いを定め、
「会って……」
 引き金を引いた――――。
 銃弾の派手な音が部屋中に響く。同時に、美しかったグラスは四方八方にキラキラと輝きながら破片となって飛び散った。
「ブチ殺してやりたい。永遠に消えない『傷』を付けて……」
 浮かぶ微笑み。それは美しくも、温かさとは程遠い。見た者の背筋を凍らせるような冷たい笑み。
「勘違いするなよ、仁樹……。これは、〝罰〟なのだから」
 銃をまた器用に回して宙に投げ、左手で華麗にキャッチする。
「私自らが下す。神の裁きによる、『栄光なる罰』だ―――」

 九年前――――。
 仁樹は、取り返しのつかないことをしてしまった。過ちを犯してしまった。
 それは償っても償い切れない、大きすぎる『罪』―――……。
 一生、背負っていかなければならない『罪』―――……。
 決して―――、
 『人』がしてはならない――――――。
 『大罪』―――――。

「〝『人』であることを忘れ、多くの『人』を殺めた罪―――〟」

 『感情』を。『自我』を失い、ただ命ずるがままに殺戮を繰り返した、操られるだけの『人形』。

 『操り人形(マリオネット)』―――――。

「〝二つの罪〟を犯したあいつに、この私が罰を与えるんだ。こんなに光栄なことはないだろう?」
 冷笑のまま。此処にはいない、金と漆黒の髪をした青年を思い浮かべ、鼻で笑う。
「ましてや。〝世界から『除外された存在』〟が、罰を与えてもらえるんだ。有難く思え」
 千架の口元が歪んでいく。
「ふ、ふふ、ふははは……、ふはははは!」
 高笑い。
 隠すことも抑えることも無いその笑いは自分よりも下の存在である全てを見下す。
 広き海を。凛とした華を。懸命に光る灯を。世界を彩る生き物を。
 彼の、〝所有物である人間を〟―――――。
 そして。それ等より下に存在する―――――、
 世界から、『除外された存在』を―――――。
「私と同等なのは、朋音だけだ。父も母も先祖も。一族の誰一人として同等な者はいない」
 高笑いが落ち着き、今度は左手で再び器用に回して銃を構える。
 視線はグラスがあった場所から離れた位置にある、大きな置き時計。
 そのガラスの中で動き、時を刻む振り子に螺旋を描く弾丸の狙いを定める。

「朋音だけなんだ――――」

 自然の世界で放たれた凶器の音は、都会の世界には届く事はない――――……。








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