神と罪のカルマ2 『辛い』ディナーを召し上がれforth【06】
〇
「畜生っ!!」
人気のない神社の境内。怒声を張り上げた青年は社の扉を容赦なく蹴り倒した。
「ここら辺には来たくなかったのによぉ!!何処に居んだ、あいつは!?」
老朽化が進んでいる箇所は派手な音を立てながら壊れていくが、怒りに身を任せた青年は次々と破壊を繰り返していく。その顔は子どもが泣いてしまう程の形相で、今までのような笑い顔とは全く異なっていた。
苛立ちによる激しい彼の破壊行動は蹴り倒して壊した扉だけでは気が済まず、社の中にある神の依代さえも台から叩き落として力強く踏みつけた。
まさに神をも恐れない暴れっぷり。この時間帯にこの場所に近づく人物がいないことに運が良いと言うべきか。青年は込みあがる苛立ちが落ち着くまで叫び、暴れ続けた。
青年の様子から察するに、先日からずっと探し続けている『あいつ』―――『ヒトキ』を見つけることが出来ていないのであろう。
何日も彼はこの暑さの中を歩き回って捜索を続けていた。しかし、彼の言葉からずっと後回しにしていた地域にまで来てしまったというのに、目的の『ヒトキ』をまだ見つけることが出来ない。
限界が来て暴れても何ら可笑しくは無いであろう。
「畜生っ、マジクソが……。ここには来たくなかったのに……なんで、いないんだよ。お前さえいれば〝全てが終わる〟のに……」
」
暫くの時が経った。流石の青年も息が上がり、暴言を吐きながらも疲れた様子で拝殿の階段に腰かける。
そして、腰を屈めて今度は悲痛の声を立てる。
手がかりの数は少なく、どれだけ望んでも容易に目の前に現れてはくれない。それでも諦めることは出来ないのであろう。このような途方もないゲームを探偵も使わずに、彼一人で何日も行いっているのだ。無理ゲーと称しても過言ではない状況に、彼は手を固く握り合わせ額へと当てる。
その姿は一件、神へ祈っているようにも見える……が
「……」
途端、その眼は鋭き睨みの形と変化し、背後にある拝殿をその黒き目に映す。
それは、まるで―――。
神を、睨み殺すように――――。
「どうするか……」
立ち上がり、今度は視線を鳥居のある方向に映した。先程とは違う疲れ切った目でその先に見える青空とその下に広がる町並みをその瞳に映す。
青年がその風景に何を想っているのかは分からない。
暫く風景を眺めたあとは静かに瞳を閉じ、黙考を始めた。時々、舞う涼しい風をその身に受けながら、街から聞こえる音をBGMに考えを廻らせる。
「……いや」
どのくらいの時が経ったであろうか。青年は口を開き、否定の言葉を溢した。
「〝他の地域の奴ら〟が見つけていないんだ。それに、まだここに居ないって決めつけるのは早ぇ。あいつは〝此処で消息を絶ったんだ〟……。此処に〝あいつを壊す何か〟があったのには間違いねぇ……!」
―――絶望するにはまだ早い。
閉じていた目を開き、今度は目の前に広がる世界を睨み付ける。
「あいつを壊す要因となったものが此処に在り続けた場合、あいつは〝此処を動くこと筈無ぇよ〟」
それは『執着』を意味するものか―――
青年の『絶対にここにいる』という言葉は果たして言霊となりえるのだろうか――。
「探していない所よりも見ていない所だな」
疲れ切っていた目は力を取り戻し、再び『ヒトキ』を探すためにいままでの情報を纏めようと腕を組み思考を巡らせる。前回の反省から夜の世界にはいないと考え、昼の世界を中心に住宅街や繁華街を歩き回って情報を集めていた。だが、見つけることは出来なかった。
『ヒトキ』は真面目に生きている。その場合、〝真面目に生きている〟からこそ情報が少ないのであろうと青年は考える。
―――良い噂よりも悪い噂の方が世の中には広まりやすいからなぁ。
一瞬、引きこもり案も考えたには考えたが。直ぐに「それは無い」と否定して頭を振った。
「引きこもりなら直ぐに金の流出先で見つけられる。そもそも、引きこもりでいられたら〝俺が困る〟」
『ヒトキ』はどのような生き方をしているのだろうか。青年は『ヒトキ』を知らないが探し出すヒントになるだろうかと思い、『ヒトキ』の現在の生き方について想像しようとした……が、これもすぐに頭を振った。
「あー辞め辞め。最初は感心したけど、やっぱり腹が立ってくる」
ガシガシと頭を掻き、甘い飴ではないが苛立ちを抑える様に塩飴をいくつか口に放り投げる。舐めることなく容赦なく噛み砕き、同時に口内に塩のしょっぱさが広がる。
「図々しんだよ……、本当に」
暑さと無理ゲーと、『ヒトキ』に対する気持ち。
三つの苛立ちが口から零れる。
「みー?」
「へっ?」
場違いな鳴き声が下の方から聞こえた。
拝殿を壊した時と同じ顔になりかけたというのに、その可愛らしい鳴き声に青年は目を見開き、思わず間抜けな声を上げた。
「みーみー?」
突然現れた存在を確かめるために、視線を下に向ける。
と、そこには鳴き声と同じくとても可愛らしく小さな子猫が首を傾げながら青年を見上げていた。
「え、猫?」
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