神と罪のカルマ オープニングfirst【05】



「すまない……!」
 目の前に座る少年へと、若い男は戸惑いも無く土下座をした。
 謝罪。畳に自分の額を強く押し当て、プライドも何もかも捨てて意を表す。
 襖を挟んだ向こう側の部屋からは大勢の人の歓喜ある声で溢れていて、各々豪華な料理やら酒やらを口に運び騒ぎ立てている。
 しかし、此方の部屋は対照的に若い男と少年の二人しかいない。食べ物も水もなければ、月明かりしか降り注がない和の部屋。
 声も若い男しか発することが無く、少年は口を一切開かない。
「私は……、いや、私たちは君に、〝取り返しのつかない〟ことをしてしまった!
 謝っても謝り切れないほどの、償っても償いきれないことを、君に……!!」
 手に力が入る。だが、それは先ほどの『東の者』とは違う。
 後悔を、自分への怒りを表す力の入れ方だった。
「……」
 少年は何も言わない。
 何も映らない瞳をただ開いたまま座り続けているだけ。
 ……いや、〝存在し続けているだけ〟と表現した方が正しいのかもしれない。
 その姿に〝人間味〟を感じない。
 その〝形〟に〝人間〟を感じない。
「言い訳はしない。私も、『一族の思い』に溺れていた」
「……」
「『成功作』と聞いて喜んだ」
「……」
「やっと果たされるのだと、いままでのことが報われるのだと……」
「……」
「君を、見るまでは……」
「……」
「間違えだったんだ」
「……」
「私たちは、この世で最も醜いことを、最低で最悪なことを……」
「……」
「君にしてしまった」
「……」
「自分たちがされて嫌だったことを、苦しんだこと全てを……」
「……」
「君にしてしまったんだ……!」
「……」
「何が『一族の思い』だ!」
「……」
「道徳も人としての誇りも何もないじゃないか!」
「……」
「多くの人生を、この子の人生を壊してまで果たすべきものなのか!!」
「……」
「私たちは人間でもなんでもない!!!」
「……」



 男は、一体どのような顔をしているのだろうか。
 顔は一切上げなかった。
 土下座したままの姿で自分たちの過ちを悔い、『一族の思い』に捕らわれていた自分を責め、少年へと謝罪の言葉を並べていく。



 その間でも、少年は一度も口を開かなかった。
 その間でも、『それ』は一度も口を開かなかった。

 ただ存在するだけ。
〝ただ其処で息をしているだけ〟
〝ただ其処で心臓が動いているだけ〟。

 呼吸と鼓動。

〝それだけしか〟『それ』から感じることが出来なかった。








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