神と罪のカルマ オープニングfifth【10】



 携帯からは通話終了時の音が流れる。
 華花菜の想いの強さによるものか。気付かぬうちに、歩んでいたはずの仁樹の足が止まっていた。

「……」
 縁 朋音───。
 彼女の『力』────。
「……」
 仁樹は思い出す。
 数年前に、始めて出会った『人物』を―――。


『朋音はね。とても幸せな家庭に生まれて来たんだ』
『優しい伯父さんと伯母さんの元に生まれて』
『大切に育てられて』
『親戚中に可愛がわれて』
『朋音ってさ。素直だろ?』
『子どもっぽくて、悪戯好きなところもあるけど』
『基本は優しくて、おっとりしてて』
『近所の人にも人気があってさ』
『幼い頃』
『公園で死んでいた野良猫を見つけたんだ』
『朋音はさ』
『躊躇いもなく、自分の腕の中に抱いたよ』
『いっぱい涙を流してね』
『初めて見たはずの猫に』
『生きてくれてありがとうって』
『ずっと泣きながら言ってた』
『最後には自分の手をボロボロにしてまで』
『穴を掘って、墓を作ってあげて』
『名前までつけてあげた』
『そういう子なんだ』
『優し過ぎる故に』
『愛し過ぎるが故に』
『命を大切にしてきた』
『だからなのか』
『運命の悪戯か……』
『気まぐれか……』
『好きだからこその虐めるのか……』
『あの子に』
『『望まないもの』を与えた……』
『あの子の『力』は』
『他者を救う事が出来て』
『己を滅ぼす事も出来るもの』
『あの子以外にも』
『その『力』持ってる人はいる』
『だから、あの子だけが』
『悲劇のヒロインというわけではない』
『だけど』
『その『力』のせいで』
『人生を狂わした人も沢山いるだろう』
『『力』と』
『一緒に生きて行くということは』
『自身が強くなければならない』
『生き抜く強さ』
『‶『精神(こころ)』の強さ〟』
『あの子は』
『朋音は』
『君よりも』
『『それ』は強いよ』


「……」
 わかっている。
 とうの昔に、わかっているのだ。
 彼女の『精神(こころ)』の強さは。
 その強さに、仁樹は敵わないってことも。
 彼女を愛することを決めた、その前から、わかっているのだ。

 『あの時』、仁樹は彼女に救われた。
 『精神(こころ)』と―――。
 『心』に救われた―――。
 仁樹だけでない。海琉も、華花菜も。彼女に出会った者は、みんな救われた。
 朋音の『強さ』に救われた―――。
 自分たちが壊れなかったのも―――。
 朋音がいたから─────。

 仁樹は強い。しかし、所詮は『暴力』だ。
 どれだけの敵を薙ぎ倒し払おうとも、『あの時の仁樹』にはそれ以上の『強さ』は手に入らなかった。
 それ以上の『強さ』があったのなら、いまの仁樹はここにはいない。

「……帰るか」
 いまは考えるのは止めよう。仁樹は再び歩み始める。
 耳から携帯を離し、そのまま時間を知るために光る画面に目を向けると、雨粒が画面へと落ちた。
拭こうにも拭くものが無い。ずぶ濡れの服では尚更だ。
 雨や曇天、湿度が高い日々が続いている。それだけで、気が滅入ってしまう。
「誕生日があるにしても……」
 雨が、大変な六月────。
「梅雨の時期は、好きになれないな……」
 早く帰ろう―――……。
 朋音に会いたい。朋音に抱き付きたい。
 『心』を覆うとする不安から、影から、何かと上手く言えないものから、逃げたくて。
 速度を早歩きに変えた────。








神と罪のカルマ オープニングfifth 終
神と罪のカルマ オープニングsixth 続









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