神と罪のカルマ オープニングfifth【02】
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「我慢は怒り我慢は怒り我慢は怒り我慢は怒り我慢は怒り我マンハイカリガマンハイカリガマンハイカリ!!!!!」
新たな隠れ家と思われる場所に男は座り込んでいた。
前までいたような倉庫ではないが、同じく捨てられたであろう廃墟の小さなビル。
砂が被っていて、破けているがソファやカーテンがその部屋にはあり、怪我をする恐れのあるガラクタが周りに存在しない。
前の隠れ家よりは多少はマシかと思われる空間で、男はナイフを片手に何処からか持ってきた木材を傷つける。
「ガマンハイカリガマンハ……アアアアアアアアアアアアア!!!」
狂ったように吐き続けた言葉は突然に止み、そしてまた突然に発狂し始める。
「クソクソクソクソ!!!」
髪をむしり取るように鷲掴み、握り、腹の底から湧き上がるドス黒い気持ちを吐き出す。
男がこの隠れ家にやって来て数日。
そして、この数日の間。男は一度も人を襲うことがなかった。
その理由は、数日前に男が犯したミス。
男のくだらない考えから始まり、料理人に追いかけられたあの日。
いつも通りに終わるだろう。いつも通りの日常が始まるだろう。
そんなことを当然のように思っていた男。だが、その『いつも通り』がやって来ることが無かった。
追いかけっこのあと、男は逃げた。警察に捕まらないように、全力で。
電話の男が言っていた通りに、警察内に『切れ者』の仕業であろうか。
食べる物を買うために街へと出れば、男の生活範囲内にて警察の姿が目に映る。
幸いなことに男の服は、数日前に目撃されたものではなく、新たなアジトに置かれていたもので、出回っている情報と一致することは無い。
衣類を変え、無造作に生えていた髭や髪も自分なりに綺麗に整えた。
しかし。抜かりないとでもいうべきか。
衣類は一度もあったことのない男の体にぴったりと合い、新しさを全く出さないほどよく皺のあるもの。
そして衣服と共にあったパソコンで打った置き手紙には、「髭と髪を整えるように」と書かれていた。
男はイラつきながらも言うとおりにした。そうしたら、どうだろうか。
相手を騙すならまずは視覚からだ、というばかりの変わりよう。
街の中に紛れ、見つかることも無い姿であろう。
男の異常性を抜けばの話だが―――。
「チクショチクショチクショぉおぉおおおおおお!!!!!」
初めてのミスは、余りにも大きなもので。
『いつも通り』に片づけることは出来なかったのだ。
くだらない考えが悪かった。狙った相手を間違えた。切れ者の存在を知らなかった。
「何が手間がかかるだ!!!!ほんっと使えねぇなぁああ、あのポンコツ野郎はぁあああ!!!」
〝手間がかかる〟――――。
それは、いつも難なく事件を闇の中に葬っていった電話の男にとって、今回ばかりは手ごわい仕事であったのだろう。
しかし、その原因を作った男は全く反省する気配は無く、当たり前のように責任を電話の男にへと押し付ける。
自分は間違っていない。ミスも犯していない。悪いのは全て使えない電話の男のせい、だと。
そして、捕まるわけにはいかない男は、電話の男が今回の騒ぎに細工し終わるまでこのビルの中で待機することになった。
それがこの数日間、男が一度も人を襲わなかった理由である。
「早く早く早くよぉぉおおお!!!人を殺してぇええのによぉおおお!!!」
胸の中に収めて耐えることなど男には当然のように出来ない。日が昇り、日が沈むまでやることが無い。
犯罪の準備としても材料を買うなどの動きを見せれば、街をうろつく警察に怪しまれる。
そんな自由に身動きも出来ないストレスを男は目の前の木材にぶつけるしかなかった。
「ふざけんなぁあああああああ」
何個目かわからない木材が音を立てて割れた。
また新たな木材を、と探すが周りに転がっていたのは、この数日で割って壊してしまった木材とコンビニで買ったもののゴミが散らかっているだけ。
「クソ!!!!」
持っていたナイフを先ほど割った木材に力強く刺し込む。
「おもしろくねぇ!!退屈過ぎだ、ボケぇえええ!!!ふざけんなよ!!!」
当てるところの無いストレスを声に変え、部屋中に響かせる。
退屈で、本当に退屈で仕方が無い、駄々をこねる子供のように。
そして―――。
そんな男の、無造作に置かれていた携帯が鳴った―――。
《さぁ、ゲームの始まりですよ?》
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