神と罪のカルマ2 『辛い』ディナーを召し上がれthird【03】



「なぁ、とーま。お前の兄ちゃんにはバレないんだろうな」
 小学生の下校時間も少し過ぎた頃。小さな頭が三つ、一つの箱をジリジリとした太陽の日差しから守るように座って覗いていた。よく見ると箱の中には生後二ヶ月程の子猫が一匹、可愛らしい鳴き声を上げながら自分を囲む者達を見上げていた。
「うん。ねこの話されてもなんとかごまかしてるからね!」
「それ、もうバレてるんじゃないかな?」
「いいや!こうしてミ―がここにいるんだからバレてない!そこでだ、二人とも!」
 元気いっぱいに答えたはねっ毛髪の少年、通称「たーくん」は立ち上がり、さながら隊長の様に腕を組んだ。その様子を灯真と子どもにしては落ち着きのある少年、通称「ゆーちゃん」は見上げる。
「分かっていると思うけど、もう少しで夏休みがやってくる。ということで、夏休み中のミーのおせわ当番をきめるぞ!」
「おせわ当番?」
「そうか。今までみたいに学校がえりみんなでおせわできないもんね」
「そういうこと!おれたちみんな、夏休みにはよていがある。だれかが来れない日はだれかが来なくちゃいけない!」
「だれかが来れない日……」
 子猫、ミーを優しく撫でながら灯真はたーくんの言葉を呟いた。
「きほんはみんなでおせわする。二人ともいいだろ?」
「さんせいだけど、おぼんとかどうしよう?ぼくもみんなもおぼんにはおじいちゃんおばあちゃんの家に行くでしょ?」
「そう、そこなんだよな~。おぼんだけが空いちまうんだよな~」
 夏休みとはいえ、流石に毎日は来ることが出来ない。特にお盆などは親の実家に帰るなどといった都合があるわけで、内緒に世話をしている以上どうしても子どもだけで残ることが出来ないのだ。
 なんとか出来ないかと考え始めるも、子ども三人だけの力でどうこうできる案が出てくるはずもなく、難しい顔をして悩んで途方にくれるたーくんとゆーちゃん。しかし、灯真は何か決意したように顔を上げ、二人に声を掛けた。
「もらってくれる人さがそう!」
「えっ!?」
 灯真の提案に驚きの声を上げるたーくん。ゆーちゃんも驚きながらも灯真に問いかける。
「でも、とーまくん。とーまくんは家ではかえないから、ここでおせわしたいって」
「うん……、でも。これからだんだんあつくなっていってミ―だってあつくてつかれちゃうし、おぼんになったら三日もみんないないんだよ。そのあいだにミーになにかあったら、ぼく……」
 本当は灯真が家で飼いたかったのだ。しかし、父である博士が猫アレルギーであることから家で飼うことが出来なかった。それでもお世話をしたいと、飼い主を捜すことをせずに友人と協力して親達には内緒で風通しのいい神社でこっそりと育てていた。
 だが、灯真はこれが自分の我が儘だと理解したのだ。自分の我が儘で二人に迷惑を掛けてしまっている、と。ならば、辛くても答えは一つ。貰い手を見つけることである。
「ごめんなさい。ぼくのわがままでふたりにめいわくかけちゃって……」
 提案するも申し訳なさで灯真は俯いた。そんな灯真の様子にたーくんとゆーちゃんはお互いに顔を見合わせながら、太陽にも負けない笑顔を浮かべた。
「!?」
 そうして、二人して灯真の背中を叩いた。その衝撃に少しよろめきながら灯真は目を見開いて二人の顔を交互に見た。
「めいわくだなんて思っちゃいないぜ!もらい手さがしわくわくするな!」
「いっしょにおせわするってきめたのはぼくたちだよ。さいごまでいっしょにがんばるよ」
「たーくん、ゆーちゃん……!ありがとう!」
 小さい、けれども大きくて暖かい友情だ。優しくて頼りになる友達を持てて幸せだなぁと少し涙目になりながらも、灯真もまた嬉しさに満ちたの笑顔を浮かべ、二人にお礼を述べた。
「けど、そのもらい手さがしは夏休みに入ってからにしようぜ」
「そうだね。もうすこしだけ、ぼくたちでそだてあげたいもん」
 二人もまた灯真と同様、ミ―とはまだ離れたくないのであろう。二人の案に灯真も「ぼくもさんせい!」と答え、再び三人は小さな背で太陽の光から守るようにミーを囲い、世話の続きをし始めた。

「素晴らしい友情だね~。最高だ」
 そんな三人の姿を物陰から見て、彼らの友情を賛美している人物が一人。いつも通りにジャージを着こなしている海琉だ。
 彼らが学校帰りに神社に寄るであろう時間を見計らって、先回りして子猫の様子を見に来ていたのだ。そして、子どもの知恵では足りないところを気付かれないようにフォローしながら三人の行動を見守っていた。
「気持ちはわかるな~。俺も華花菜と一緒に子犬の世話したっけ」
 幼い少年たちにかつての自分たちを重ねながら、顎に手を当て「さて」と考え始める。
 ここ数日、何とか貰い手はいないかと知り合いに聞いて回ってみたが結果は仁樹と同じく惨敗。しかし、灯真が貰い手を探すという決意をしてくれたことで範囲を広げ、インターネット等で貰い手を探すことが出来るようになったわけである。
「でも、その前に灯真君の口からしっかり聞かないとね」
 貰い手探しはするけれど、自分達大人組にはまだ頼ろうとはしていない。子どもたちがしっかりと自分の言葉で話さない限りは、知っている大人組は見えないように、気付かれないようにフォローに徹するのみである。








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